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     その歌声は雲間から照らす、ひかり。
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2012/02/14 (Tue)


 
 
 
”甘い、甘い。
とろけるような、誘惑。”
 
 
そんな、キャッチフレーズがついたポスターを見遣る。
バレンタインに向けて発売されるチョコレートの告知用のものだ。
チョコレート嫌いな自分が
イメージキャラクターに選ばれるなんて思ってもいなかったが、
先方にしてみたら、いちモデルの得手不得手など然したる問題ではないらしい。
 
オファーが来た以上「個」を消し、求められた、
それ以上のものを表現できる自信はある。
そして、その結果が目の前のポスター、だ。
まだ世の中に出回っていないから人々の反応はわからないが、
自分でも満足のいくものになったと思う。
企業側の商品イメージを損なうことなく、自分の売りである色気をにじませて。
 
 
だから、
 
今心配なのは、この「仕事内容」そのものじゃない。
仕事を受けたことによって起こる「事態」についてだ。
 
 
再び商品とポスターに目を遣り、ため息を吐いた。
イベントごとが好きなレディ達は、この機を逃すはずもなく自分にチョコレートを贈りつけてくるんだろう。特に今年は、バレンタイン商品のイメージキャラクターをやっているから、それはもう憶測ではなく確定された未来だ。
ファンからの贈り物を受け取り拒否することなどできないし、
たとえ自分の嫌いなものであっても、好意の形であるそれを無下にはできない。
さらに悪条件は重なり、バレンタインデーである2月14日は自分の誕生日で―――
 
 
今度は音にならないように、何度目になるかわからないため息を吐く。
 
なによりも心配なのは贈られたチョコレートの行先などではなく、
愛しい彼女の顔が曇ってしまうことだ。
ハニーは、とても繊細ですぐに心を痛めるのに、
自分の前では、言葉を飲み込んで笑顔を絶やさない。
絶対に、独占欲をのぞかせるような煩わしいことなど、口に出さないだろう。
 
けれど。
来る者拒まず、去る者追わず。
そんな学生生活を送っていた自分に、まだお互いにお互いへの気持ちを持て余していた頃の彼女の視線を思い出すだけで、胸が引きちぎれそうになる。
目の前にいる時には見せない感情が、その視線からはうかがえた。
 
「どうして」
 
「さみしい」
 
「かなしい」
 
当時本当にそう言われていたら、きっとオレは彼女と向き合いはしなかっただろう。
パートナーとしての能力は認めつつも、女性としての彼女は今までに自分の周りにはいなかった、正直に言えば「面倒くさい」タイプだったから。
 
 
しかし、今は違う。
もっとオレのことを考えて。
もっと寂しがって。
もっと。
 
 
自分の欲が深くなるのと比例して、
彼女はそういった感情を隠すのがうまくなった。
それがたまらなく、つらい。
1人で心に秘めないで、感情をぶつけてほしい。     
本当ならば少しでも悲しませたくないけれど、
不可避なこの事態にハニーの心が曇らないように、
 
 
 
チョコレートよりも甘く甘く、溶かしてあげるから。
―――――もっと、甘えて?
 
 
 
 
「sweet sweet honey」
 
 
 

 

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