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     その歌声は雲間から照らす、ひかり。
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2024/05/17 (Fri)
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2012/05/15 (Tue)
 
俺の育った施設には、大きな桜の樹があった。
施設が出来た当時、どこかのお偉いさんが苗木を贈呈してくれたそうだ。
そのお偉いさんが、どこのどんな人なのか知ろうとも思わなかったし、
幼い自分は、情緒や日本人特有の趣など理解していなかったけど、
俺はその桜の樹が大好きで、
春が来るたびに、舞う桜の花びらの中に立って、
よくその枝ぶりを見上げていた。
  
それはいつのことだったか。
少し背も伸びて、やっとまわりの女子の身長を追い抜いた頃のこと。
 
樹木がにわかに色づき、蕾がそろそろ開きそうな時。
その花が咲く様子を間近で見てみたい、と思ってしまって
その木に登ってみたことがあった。
運動が得意だと自負していたし、
軋む体が自分の成長を自覚させていたこともあって
大丈夫だと思ってのことだったけど、
木の上に登ってみれば思いのほか地面への距離は遠く、高く。
登ってから後悔してもあとの祭り。
降りるにも足がすくんで動けず、みんなを巻き込んでの騒動になった。
花を愛でる余裕もないまま、最後は軽く落ちるような形で地面に降りた。
幸い怪我もなく、軽いお説教で済んだんだけど、
その時はずみで掴んでしまった桜の小枝を折ってしまった。
 
そんな意図はなかったものの、桜の花が咲く様子を間近で見られることに
少しだけ嬉しくなって、その枝をバケツに突っ込んで部屋に持って行った。
 
 


 
 
「怪我の功名、と言う感じですね?」
 
出会った頃よりも長くなった暖かそうな色の髪の毛が、
ふわりふわりと風に舞う。
お互い忙しくてお花見が出来ないと嘆く俺に
この桜並木の散歩に誘ってくれたのは春歌だった。
仕事の都合もあって、夜桜見物になっちゃったけど
闇の中に浮かぶ桜並木は昼間には見ることのできない表情を見せていた。
咲いている花よりも落ちる花びらの数の方が多いのではないかと思うほど、
風が吹くたびに桜色に染まる空間。
 
桜を見て思い出した昔話を語ると、鈴を鳴らすような声で笑う春歌。
あまり行動的ではなかったと言う彼女は、
俺の小さな頃の失敗談や武勇伝をいつも楽しそうに聞いてくれる。
 
「それがね、結局花が咲くところは見れなかったんだ。」
 
俺の言葉に、小さく首を傾げる春歌が何だか微笑ましくて、
髪の毛についている桜の花びらを取る振りをしてその頭を優しくなでた。
俺の行動に吃驚した後、頬を染めてうつむいてしまった春歌に
事の顛末を教える。
 
 
 
 
 
 
 
よく見えるように、と。
一番いい場所に桜の枝を入れたバケツを置くと、
お小言と共に言いつけられていた用事を済ませるために外に出た。
つぼみが膨らんで開きかけてはいても
花びらが完全に開ききるまではまだ時間がかかるだろう。
そう考えていたのもあったし、春特有のふわふわとした陽気も手伝って、
そのまま空が暗くなるまで桜のことは忘れていた。
その日の夜、小さな変化も見逃すまいと意気込んで
バケツを置いた場所に近づいた俺は愕然とした。
つぼみが開くどころか、もうすでに桜は開ききっていて、
その花弁はバケツの中の水に浮かんでいたり
その周りに落ちてしまっていたのだ。
 

 
 
「それは……」
春歌が小さな声で、俺の言葉をさえぎった。
まるで過去の俺を気遣うような優しい声音に
心がじわりとあたたかくなって、小さく笑う。
「今考えるとさ、室温は暖かくて、
さらに日当たりのいい場所に置いてたんだから、
開きかけの蕾が開ききって、落ちちゃったんだな、ってわかるんだけど。」
何の気なしに、舞っている花びらを拾うようなしぐさで手を広げる。
ふわりふわりと規則性もなく落ちている花びらは、
手をすり抜けて地へと落ちてゆく。
「その時の俺はさ、
外の桜はまだつぼみで、これからきれいに咲き乱れる姿を考えると
まるで自分がこの枝を折っちゃったせいで
綺麗に咲くはずだった花を枯らしちゃったと思っちゃって。」
 
ぎゅっ、と開いた手を握ると
何もつかめなかったてのひらの内がひやりとした気がした。
 
その冷たい感触をさびしいと思うのも、
昔を思い出して、こんなに感傷的になるのも。
幻想的で、非現実的なこの夜桜の所為かもしれない。
自分らしくない、と。
そう思うのに、いつものペースに戻すことができない。
  
 
「音也くん」
  
 
冷えた、てのひらに優しく触れる自分以外のぬくもり。
ざわりと揺れたのは、
空気だろうか、風に揺れる桜の枝だろうか。
 
でもたぶん、きっと、なによりも。
 
自分の心がどうしようもなく震えた。
 
  
 
何もつかめなかった手を包むように、春歌が自分の手を重ねる。
心配そうに俺を見る彼女としばらく見つめあっていると、
「大丈夫だよ」と言うかのように、春歌がふわりと笑った。
 
  
それはまるで、
春の日差しをあびて、やわらかく開く桜の花のようで。

あの日の自分が見たかったのは、きっとこれだったんだ、と思った。
 
 
 
 
 
 
 
「桜の君に恋焦がれ」

 
夜想曲 様に 告白 というお題で参加させていただきました。
愛の告白じゃなくてすみません…。

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2012/02/14 (Tue)

※トキヤ+音也のユニットデビュー設定。
 


 
「あ、あのっ!」
大好きな春歌の声を耳にとらえた。
そんなに大きな声ではなかったけど、
春歌の声なら雑踏の中でもきっと聞き分けられる自信がある。
 
現場に来るとは聞いていなかったから、
様子を見てすぐに帰ってしまう可能性が大きい。
帰る前に少しでも話がしたいな~と思って、そちらを振り向いた。けど。

(えっ。)

思わず、動きが止まってしまった。
春歌が話しかけていたのは、トキヤで。
そして、顔を赤くさせた春歌が持っていたのは可愛くラッピングされている箱。
 
当日まではまだ日にちがあるけど、ここ最近特集によく組まれているから、
それが何か、なんて。考えるまでもなくて。
「義理チョコ」と言うには、手の込んでいるそれを、
トキヤは普段であればカロリーを気にして言うはずの断り言葉も口に出さず、
少し表情を緩めて受け取っていた。
 
 
まるで、視界が黒く染まるような錯覚。
 
                     
春歌が、トキヤ―――もとい、HAYATOに憧れていたのは前から知っている。
HAYATOがトキヤと同一人物であるのはつい最近知ったことだけど。
それでも、憧れは憧れで、それ以上でもそれ以下でもないと思っていた。
二人を遠目に見ながら、ぎりりと、歯を食いしばる。
(春歌が、好きだ。――――やっぱりあきらめられない。)

醜い感情とともに再確認するのは、強い “君への思い” 。
 
トキヤとの話が終わったタイミングで、自然な風を装って春歌に近づく。
それに気づいた春歌が、少し驚いた顔をする。
(あ、もしかしたら)
今、自分の顔はひきつっているかもしれない。
そう思ったけど、今引き返すのも不自然だし、
なにより春歌と少しでも話がしたい。
自分の気持ちに、いつだって正直でいたいから。
だから、俺は―――

「はる、」
「お、おとやくん!」

珍しく言葉をさえぎって俺の名前を呼ぶ春歌は、
もしかしたら、先程トキヤと話していた時よりも顔を赤くさせていて。
(……えっ?)
びっくりして、春歌の細かく震える指先を凝視する。
「あ、あの…っ!」
そう言って、
まるですがるように震える指で俺のジャケットスーツの裾を握った春歌は、
「2月14日、お時間を作れませんか……?」
と言った。
 
 
トキヤには当日じゃない日にチョコを渡して、
俺には当日に時間を欲しい、と言う。
 
 
かっ、と顔が赤くなったのが自分でもわかった。
「えっ???」
「あっ、いえ、お忙しいのであれば――」
そう言いながら離れそうになった指先を、
とっさに捕まえて力いっぱい握りしめる。
「ううん!今ちょっとスケジュールわからないけど、忙しくても作る!
時間作るから!!」
まるでわらにもすがる勢いでそう言い募ると、
春歌が、俺の大好きな顔で笑った。
 
 
 
 
―――今年の2月14日はトクベツな日になりそうです。
 

 
.。.:*゚・*:.。. HappyValentine.。.:゚・*:.。.




「トクベツをちょうだい?」

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