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     その歌声は雲間から照らす、ひかり。
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2024/05/17 (Fri)
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2012/03/11 (Sun)




「ぃ…一ノ瀬さん……ど、どうしたんですか?」



自分が出した声は、果たして相手に届いただろうか。
そんな不安を覚えるほど、弱々しい声になってしまったけれど
この近距離ならきっと、届いている。はずだ。
―――届いているはずなのに、一ノ瀬さんは何も返してくれないけど。

先程から何もしゃべってくれない彼の表情をうかがいたいけれど、
顔が近すぎて顔を上げることすら恥ずかしくてできない。


(近い……。近すぎますっ!!)


直接押さえつけられはしていないものの、
まるで一ノ瀬さんの腕に閉じこめられるような形で壁に縫いとめられていて、
逃げることができない。
近すぎる顔は、身長差があるから見上げなければ視線は絡まないけれど、
そこには背後から感じる壁の冷たさと共に、ひやりとした緊張感があった。

校内なのだから、当然学生たちの声が聞こえるけれど、
あまり人通りのないこの渡り廊下の片隅のこの場所においては、
それもどこか遠く、音と音が擦れるようなまるで意味を成さないBGMのよう。
一ノ瀬さんが何も言ってくれない分、ここは無音で
まるでここだけが違う世界の様に少し現実感がない。

(どうしてこんなことに…。)

そう思うけど、思い当たる節はない、と、思う。
翔君と神宮寺さんの3人で明日提出の課題についてお話ししていたら、
日向先生からの呼び出しから戻ってきた一ノ瀬さんが
一瞬だけ驚いたような表情をしたのが見えた。
不思議に思って、声をかけようとするよりも早く、
「七海君、ちょっと……よろしいですか?」
と、先程の表情なんてなかったかのように、綺麗に笑った。

連れ出されたこの場所で、
突然壁に追いつめられるような体勢になり、今に至る。


質問に対する返答は、未だ無い。


どうしていいのかわからず、足元に視線を彷徨わせると
低いため息が耳をかすめて体温が上昇する。
一ノ瀬さんの歌声は華やかで色気を含んでいて、
囁くように歌われるとドキドキして困ってしまうのだけど、
(ため息まで色っぽいんだなぁ、)
なんて考えている自分がなんだかすごく恥ずかしくなって、
反射的に自分の耳を手で押さえたらその手首を柔らかく拘束された。
「い、一ノ瀬さん…っ??」
触れ合う場所から、伝わる熱に頬が熱くなる。



「こうやって―――いえ、なんでもありません。」

「???」

そう言って、困ったように笑う一ノ瀬さんが続けようとした言葉を
この時の私は、知る由もなかった。





「私だけを目に映して、私だけの声だけに耳を傾けて
私のことだけを考えていればいい。」





「甘い独占欲」

お題は「Cock Ro:bin」様からいただきました。


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2012/03/04 (Sun)
このカプで、こういうの見たい!っていうリクエストなどあれば
いただけると嬉しいです…。
コメでも拍手でも大丈夫なので、お気軽にどうぞ!

お受けできないもの
・ エロ (読むのは好きなのですが、書くのが苦手で;)
・ 記憶喪失モノ (好きで、どのジャンルでも挑戦するのですが
            完結出来たためしがない為)

その他、ご期待に沿えるよう努力はしますが、
未熟者ですので、生暖かい目で見守っていただけると幸いです。

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2012/02/29 (Wed)
 


 
春歌は、まるで、陽だまりのよう。
 
ぽかぽかと暖かく、触れるとほっとする。
もっと触れたい、触れてほしい。               
 
 
 
ピアノの鍵盤をなぞる指で、ワタシに触れる。
 
ネコの姿のワタシに、
手を伸ばされ抱きしめられると
まるで全てのものから守られているような、安心感。
今までの自分とは違う姿で、
今までとは違う異国の地で、
不安定な心はいとも簡単に絡めとられて、
触れたところから、幸せな気持ちがじわじわと広がっていく。
 
 
 
透き通った声で、ワタシの名前を呼ぶ。
 
ワタシの名前であって、そうではない名前は、
彼女がワタシに最初にくれた贈り物。
旋律を奏でるような言葉は、
ワタシの耳から、心臓にたどりつき、
まるで血液にまぎれて、流れ込むように
この小さな肢体は、容易に春歌への気持ちでいっぱいになってしまう。
 
 
 
元の――人間の姿になったワタシに、
春歌が困惑する理由が最初はわからなかった。
なぜ、いつものように触れてくれないのか。
なぜ、いつものようにその名前を呼んでくれないのか。
どちらも、ワタシでしかないのに。
 
なぜ、と。
 
しあわせで、でも、苦しくて。
もっと近づきたいのに、近づけなくて。
もどかしくて、でも、傷つけたくはなくて。
 
 
 
 
 
春歌を困らせるくらいならば、


元(ヒト)の姿に戻れなくても構わない。
 
 
春歌の為、というのは言い訳でしかない。
自分の臆病な心が、この呪われた身体を受け入れた。

陽だまりの中で、小さくまるくなることしかできないワタシは、
それでも彼女のこれからの幸せを願い続ける。






「戻れなくても構わない」
 

お題は「Cock Ro:bin」様からいただきました。

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* ILLUSTRATION BY nyao *