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     その歌声は雲間から照らす、ひかり。
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2012/03/11 (Sun)




「ぃ…一ノ瀬さん……ど、どうしたんですか?」



自分が出した声は、果たして相手に届いただろうか。
そんな不安を覚えるほど、弱々しい声になってしまったけれど
この近距離ならきっと、届いている。はずだ。
―――届いているはずなのに、一ノ瀬さんは何も返してくれないけど。

先程から何もしゃべってくれない彼の表情をうかがいたいけれど、
顔が近すぎて顔を上げることすら恥ずかしくてできない。


(近い……。近すぎますっ!!)


直接押さえつけられはしていないものの、
まるで一ノ瀬さんの腕に閉じこめられるような形で壁に縫いとめられていて、
逃げることができない。
近すぎる顔は、身長差があるから見上げなければ視線は絡まないけれど、
そこには背後から感じる壁の冷たさと共に、ひやりとした緊張感があった。

校内なのだから、当然学生たちの声が聞こえるけれど、
あまり人通りのないこの渡り廊下の片隅のこの場所においては、
それもどこか遠く、音と音が擦れるようなまるで意味を成さないBGMのよう。
一ノ瀬さんが何も言ってくれない分、ここは無音で
まるでここだけが違う世界の様に少し現実感がない。

(どうしてこんなことに…。)

そう思うけど、思い当たる節はない、と、思う。
翔君と神宮寺さんの3人で明日提出の課題についてお話ししていたら、
日向先生からの呼び出しから戻ってきた一ノ瀬さんが
一瞬だけ驚いたような表情をしたのが見えた。
不思議に思って、声をかけようとするよりも早く、
「七海君、ちょっと……よろしいですか?」
と、先程の表情なんてなかったかのように、綺麗に笑った。

連れ出されたこの場所で、
突然壁に追いつめられるような体勢になり、今に至る。


質問に対する返答は、未だ無い。


どうしていいのかわからず、足元に視線を彷徨わせると
低いため息が耳をかすめて体温が上昇する。
一ノ瀬さんの歌声は華やかで色気を含んでいて、
囁くように歌われるとドキドキして困ってしまうのだけど、
(ため息まで色っぽいんだなぁ、)
なんて考えている自分がなんだかすごく恥ずかしくなって、
反射的に自分の耳を手で押さえたらその手首を柔らかく拘束された。
「い、一ノ瀬さん…っ??」
触れ合う場所から、伝わる熱に頬が熱くなる。



「こうやって―――いえ、なんでもありません。」

「???」

そう言って、困ったように笑う一ノ瀬さんが続けようとした言葉を
この時の私は、知る由もなかった。





「私だけを目に映して、私だけの声だけに耳を傾けて
私のことだけを考えていればいい。」





「甘い独占欲」

お題は「Cock Ro:bin」様からいただきました。


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* ILLUSTRATION BY nyao *