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     その歌声は雲間から照らす、ひかり。
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2012/02/29 (Wed)
 


 
春歌は、まるで、陽だまりのよう。
 
ぽかぽかと暖かく、触れるとほっとする。
もっと触れたい、触れてほしい。               
 
 
 
ピアノの鍵盤をなぞる指で、ワタシに触れる。
 
ネコの姿のワタシに、
手を伸ばされ抱きしめられると
まるで全てのものから守られているような、安心感。
今までの自分とは違う姿で、
今までとは違う異国の地で、
不安定な心はいとも簡単に絡めとられて、
触れたところから、幸せな気持ちがじわじわと広がっていく。
 
 
 
透き通った声で、ワタシの名前を呼ぶ。
 
ワタシの名前であって、そうではない名前は、
彼女がワタシに最初にくれた贈り物。
旋律を奏でるような言葉は、
ワタシの耳から、心臓にたどりつき、
まるで血液にまぎれて、流れ込むように
この小さな肢体は、容易に春歌への気持ちでいっぱいになってしまう。
 
 
 
元の――人間の姿になったワタシに、
春歌が困惑する理由が最初はわからなかった。
なぜ、いつものように触れてくれないのか。
なぜ、いつものようにその名前を呼んでくれないのか。
どちらも、ワタシでしかないのに。
 
なぜ、と。
 
しあわせで、でも、苦しくて。
もっと近づきたいのに、近づけなくて。
もどかしくて、でも、傷つけたくはなくて。
 
 
 
 
 
春歌を困らせるくらいならば、


元(ヒト)の姿に戻れなくても構わない。
 
 
春歌の為、というのは言い訳でしかない。
自分の臆病な心が、この呪われた身体を受け入れた。

陽だまりの中で、小さくまるくなることしかできないワタシは、
それでも彼女のこれからの幸せを願い続ける。






「戻れなくても構わない」
 

お題は「Cock Ro:bin」様からいただきました。

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* ILLUSTRATION BY nyao *